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「見つかったときには遅い」と言われる膵臓がん——鍼灸と東洋医学にできること
こんにちは、健美堂の松田です。
先日、ある医師の解説動画を観ました。テーマは膵臓がん。
「見つかったときにはもう遅い」——その言葉が、ずっと頭に残っています。
膵臓がんは、胃がんや大腸がんと違って定期的なスクリーニング検査がありません。
背中の痛みで気づいたときにはステージ4だった、というケースも珍しくない。
健康診断で「血糖値がやや高め」と指摘されたことがある。
甘いものや炭水化物が多い食生活が続いている。
ストレスが強く、眠りが浅い日が多い。
お酒を飲む機会が少なくない。
もしこうした日常に心当たりがあるなら、今回の内容は少し立ち止まって読んでいただきたいと思います。
「見つかる前にどう備えるか」。
膵臓がんの現状と、鍼灸・東洋医学が予防の観点からどう貢献できるかを、研究論文の知見も交えながらお伝えします。
膵臓がんは、いま「第3位」に浮上している
厚生労働省の令和6年(2024年)人口動態統計によると、膵臓がんによる年間死亡者数は41,235人。
胃がん(37,867人)を上回り、肺がん・大腸がんに次ぐ第3位になりました。

この数字が示しているのは、膵臓がんが「珍しい病気」ではなくなったということ。
にもかかわらず、早期発見の手段が限られているのが現状です。
なぜ膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるのか
膵臓は胃の裏側、体の奥深くに位置しています。
その場所の問題から、通常の健康診断では異常が見つかりにくい。
さらに、膵臓には「活性酸素に弱い」という特徴があります。
活性酸素とは、呼吸や代謝の過程で体内に生じる物質で、本来は細菌を攻撃するなどの役割を持ちます。しかし過剰になると、細胞の遺伝子を傷つけ、がんの原因となり得ます。
膵臓が特に脆弱なのには理由があります。
膵臓は消化酵素を分泌する臓器であり、もともと「自分自身を消化してしまう」リスクと隣り合わせにあります。そのため、他の臓器に比べて酸化ストレスの影響を受けやすいと考えられています。
この活性酸素を増やす要因は、日常生活のなかにあります。
- 慢性的なストレス
- 糖質の摂りすぎ
- 飲酒
- 睡眠不足
- 過度な運動
糖尿病などで膵臓を酷使し続けることも、リスクを高める要因です。
予防のカギとなる栄養素——メタ分析が示すデータ
膵臓がんの予防に関して、複数のメタ分析(複数の研究をまとめて統計的に分析する手法)が、特定の栄養素とリスク低減の関連を報告しています。

- セレン:最も摂取量が多いグループでリスクが34.1%低下(Oncology Letters, 2016年、6研究・1424症例)
- 亜鉛:同様にリスクが20.2%低下(Li & Gai, Bioscience Reports, 2017年、7研究・1659症例)
- ビタミンE:リスクが19%低下(Peng et al., Medical Science Monitor, 2015年、10研究・2976症例)
いずれも「最も摂取量が多いグループ」と「最も少ないグループ」を比較した結果です。
サプリメントに頼るというよりも、日々の食事から自然に摂れているかどうかが問われています。
セレンは魚介類やナッツ類、亜鉛は牡蠣や赤身肉、ビタミンEはアーモンドやかぼちゃに多く含まれます。
ただし、ここで重要なのは「一つの栄養素を大量に摂ること」ではありません。
実際の臨床では、食事バランスの乱れや消化吸収力の低下が背景にあるケースが多く見られます。
東洋医学では、こうした状態を「気が足りない」「胃腸の力が弱っている」と捉えます。
単に栄養を足すのではなく、「取り込める身体」を整えることを重視する。
栄養素の話をした上であえて言いますが、ここが根本的に大切なところです。
なお、ビタミンDやケルセチン(フラボノイド)についても有力な研究はありますが、今回はより評価基準の厳しい最新のメタ分析によって数値が確定しているものに絞って掲載しました。確認できた範囲で誠実にお伝えすることを大切にしています。
鍼灸が「がんになりにくい身体」に寄与する3つのメカニズム
鍼灸ががんを直接治すわけではありません。
しかし、近年の研究は、鍼灸が持つ生理学的な作用が「がんになりにくい体内環境」を整える可能性を示唆しています。
1. NK細胞の活性化——体内の「監視システム」を強くする
NK(ナチュラルキラー)細胞は、体内に現れた異常な細胞を最初に見つけて攻撃する免疫細胞です。いわば、がんの芽を早期に摘み取る「見張り番」のような存在。
がん患者を対象としたメタ分析(Liu et al., 2024年、56研究)では、鍼灸によってNK細胞が有意に増加したことが報告されています。
また、Wang et al.(2025年、33のRCT・2610名)でも同様にNK細胞レベルの向上が確認されました。
これは「鍼灸を受けることで、体の免疫監視能力が高まる可能性がある」ことを意味しています。
2. 慢性炎症の抑制——がんの「土壌」を整える
がんの多くは、慢性的な炎症が続く環境で発生しやすいことがわかっています。
炎症が長引くと細胞の遺伝子が繰り返し傷つき、やがて異常な増殖へとつながるのです。
鍼灸には、この慢性炎症を鎮める作用が確認されています。
Wei & Huang(2025年、13のRCT・658名)の研究では、鍼灸によってCRP、IL-6、TNF-αといった炎症性マーカーが有意に低下したことが報告されています。
そのメカニズムの一つが「迷走神経を介した抗炎症経路」です。
足三里(ST36)などのツボへの刺激が迷走神経を活性化させ、体内の炎症反応を抑制する。この経路は「コリン作動性抗炎症経路」(神経を通じて炎症を鎮める指令が伝わる仕組み)と呼ばれ、国際的なトップジャーナルでも注目されています。
実際の施術でも、慢性的な疲労感や炎症性の症状が強い方ほど、継続的な鍼灸によって体調全体が底上げされていく変化が見られることは少なくありません。
3. 自律神経の調整と抗酸化作用——活性酸素に負けない身体へ
膵臓がんのリスク因子として最初に挙げた「活性酸素」。
鍼灸には、この活性酸素に対抗する力を高める報告もあります。
Zhao et al.(2022年、12の動物研究のメタ分析)では、鍼灸によって体内の抗酸化酵素であるSOD(スーパーオキシドディスムターゼ:活性酸素を分解する酵素)やカタラーゼの活性が有意に向上したことが示されています。
ヒトでの大規模検証はこれからの段階ですが、鍼灸が体内の「酸化に対抗する力」を引き出す可能性を示す、注目すべきデータです。
また、自律神経の調整についても複数の研究があります。
Hamvas et al.(2022年、9のRCT)は、鍼灸が心拍変動(HRV)を改善し副交感神経優位を促すことを報告。
Ma et al.(2025年、10のRCT・744名)でもSDNN(心拍変動の指標)の有意な改善が確認されています。
自律神経が整うことは、ストレス反応の抑制、睡眠の質の改善を通じて、活性酸素の過剰な産生を間接的に防ぐことにつながります。
東洋医学の「未病治」——2000年前からの予防医学
東洋医学には「未病治(みびょうち)」という考え方があります。
まだ病気になっていない段階で、体の偏りやバランスの乱れを整えること。
これは、現代の予防医学が目指す方向と驚くほど重なっています。
「自律神経を整え、慢性炎症を鎮め、免疫の監視機能を維持する」
——現代の研究が明らかにしつつある鍼灸の作用は、まさに「未病治」の実践そのものです。
健美堂では、この「未病治」の考え方をベースに、症状が出る前の段階から脈診・舌診を通じて身体のバランスを評価し、整えていくことを大切にしています。
季節の変わり目は、体が揺らぎやすい時期でもあります。
春の気の昂ぶり、梅雨の胃腸の疲れ、夏の消耗。
こうした「ちょっとした不調」のうちに体を整えておくことが、長い目で見たときに大きな差になります。
まとめ
膵臓がんは早期発見が極めて難しく、見つかったときには手遅れであることが多い疾患です。
だからこそ、「がんが芽生えにくい体内環境を日々整える」ことが、最も確実な備えになります。
鍼灸は「がんを治す」ものではありません。
しかし、NK細胞を活性化し、慢性炎症を抑え、自律神経を整え、活性酸素に対抗する力を高める——そうした積み重ねが、長い時間をかけて体の「土壌」を変えていく。
「特に症状はないけれど、なんとなく不安がある」
そう感じたときが、実は一番良いタイミングかもしれません。
検査の数値には表れない「なんとなくの不調」こそ、東洋医学の出番です。
気になることがあれば、いつでもご相談ください。
参考文献
がん統計
- 厚生労働省「令和6年(2024年)人口動態統計(確定数)」
栄養素と膵臓がんリスク
- Li L, Gai X. The association between dietary zinc intake and risk of pancreatic cancer: a meta-analysis. Bioscience Reports, 2017.
- Peng L, et al. Intake of vitamin E and pancreatic cancer risk: a meta-analysis of observational studies. Medical Science Monitor, 2015.
- Oncology Letters, 2016(セレンと膵臓がんリスクに関するメタ分析)
鍼灸と免疫・炎症・自律神経
- Liu W, et al. Acupuncture and moxibustion on immune function in cancer patients: a meta-analysis (56 studies). 2024.
- Wang Y, et al. Acupuncture effects on NK cell levels in malignant tumor patients: meta-analysis of 33 RCTs. 2025.
- Wei R, Huang Z. Acupuncture effects on inflammatory markers (CRP, IL-6, TNF-α) in chronic pelvic inflammatory disease: meta-analysis of 13 RCTs. 2025.
- Zhao Y, et al. Acupuncture effects on SOD and catalase activity: meta-analysis of 12 animal studies. 2022.
- Hamvas S, et al. Acupuncture increases parasympathetic tone, modulating HRV: systematic review and meta-analysis of 9 RCTs. Complementary Therapies in Medicine, 2022.
- Ma et al. Clinical efficacy and safety of acupuncture in modulating autonomic nervous function: meta-analysis of 10 RCTs. Frontiers in Neuroscience, 2025.