なぜ重陽の節句は忘れられたのか?〜白露の頃に迎える五節句〜
なぜ重陽の節句は忘れられたのか?〜白露の頃に迎える五節句〜
9月9日は「重陽の節句(菊の節句)」。五節句のひとつですが、しかし、現代では重陽の節句を祝う人は少なくなりました。その理由と、菊の薬効を活かした養生法を紹介します。
◆五節句と植物の関わり
五節句とは、奇数が重なる日に邪気を祓い、健康や長寿を願う行事です。すべてに植物が関わっています。
- 1月7日 人日の節句(七草の節句)…七草粥などを食し、その年の健康を祈願します。
- 3月3日 上巳の節句(桃の節句)…雛人形を飾り、はまぐりのお吸い物などを食し、女子の健やかな成長を祈願します。
- 5月5日 端午の節句(菖蒲の節句)…こいのぼりや菖蒲湯で、男子の健やかな成長を祈願します。
- 7月7日 七夕の節句(笹の節句)…笹竹に願いを託し、夢成就を祈願します。
- 9月9日 重陽の節句(菊の節句)…菊酒や菊枕を使い、菊の薬効により健康を祈願します。
本来は1月1日が候補でしたが、元日は特別な日とされて外され、代わりに1月7日が五節句に組み込まれました。
◆重陽の節句が忘れられた理由
では、なぜ9月9日だけが現代で影が薄いのでしょうか。その理由は大きく3つ考えられます。
- 子ども行事と結びつかなかった
桃の節句や端午の節句は子どもや家庭の行事として定着しましたが、重陽は「長寿祈願」。生活に直結しにくく、次第に忘れられていきました。 - 改暦による行事感覚のずれ
明治6年(1873年)の改暦で新暦9月9日に固定されたことで、旧暦時代の「菊の盛り」との結びつきが薄れました。 - 風習の途絶え
江戸時代までは菊酒や菊枕、被綿(きせわた)などの風習がありましたが、都市化や生活様式の変化で行われなくなりました。
◆現代に活かす重陽の節句
重陽の節句で最も大切なのは、古来から伝えられてきた菊の薬効です。
中国では「菊水伝説」に象徴されるように、菊は不老長寿の象徴であり、健康をもたらす植物とされてきました。
その考え方は平安時代に日本へ伝わり、菊酒や菊枕などの形で「長寿祈願」として定着しました。
現代においても、この「菊の薬効を取り入れて健康長寿を願う」という本質は変わりません。
菊花茶や食用菊、香りを楽しむ菊湯など、身近に取り入れる方法はいくらでもあります。
また、9月には「敬老の日」もあるため、この月を「長寿と健康を願う月」として意識するのもよいでしょう。
そのため、菊の薬効を活かした養生法を現代に取り入れることが大切です。
・菊湯で心身を整える
昔は「菊酒」や「菊枕」が知られていましたが、現代なら「菊湯」もおすすめです。
湯船に菊の花を浮かべて秋の香りを楽しむことで、夏の疲れを癒し、自律神経をリセットできます。
さらに菊の薬効にはイライラや高血圧の改善、解毒作用による吹き出物や腫れ物の改善などもあり、入浴と組み合わせることでより効果を発揮します。
まさに白露の養生にふさわしい過ごし方といえるでしょう。
・実は最も“陽の気”が強い日、それが重陽
陰陽思想では、奇数は「陽」、偶数は「陰」とされます。
つまり「9月9日」は、陽の最大数「9」が重なる特別な日。
これが「重陽(ちょうよう)」と呼ばれる所以です。
陽が極まると、エネルギーが強すぎてバランスを崩すこともあるため、昔の人々はこの日に「邪気を祓い、長寿を願う」行事を行いました。
・なぜ今、重陽が必要なのか?
現代人は、仕事・人間関係・情報過多によって、常に“陽”が過剰な状態になりがちです。
- 眠れない
- 頭が熱い・ぼんやりする
- 心がざわつく・感情の波が激しい
- やる気はあるのに疲れやすい
これらはまさに「陽」が強すぎて「陰」が不足した、陰陽のアンバランスからくるサインです。
・重陽の節句は“陽を祝い、陽を整える”日
菊茶をいただき、静かな時間を持ち、体を整える鍼灸を受けることで、乱れた“陰陽のバランス”を取り戻すチャンスになります。
節句とはもともと「節(ふし)を区切る日」。人生もまた、リズムと陰陽の連続です。
・9月は“鍼養生の月”〜全年代に必要なケア〜
重陽の節句は、自然の流れと自分自身を調和させる絶好のタイミングです。
「鍼養生」と聞くと年配の方向けの印象を持たれるかもしれませんが、実際には全年代に必要なケアです。
仕事や学業、家事や子育てなど、ライフスタイルに関わらず現代人は誰もが“陽の過剰”や“陰の不足”に陥りやすいのです。
9月は、夏の疲れや気候の変化で体調を崩しやすい時期。
だからこそ年齢に関係なく、心身の陰陽を整えるために鍼灸で体をチューニングするのが効果的です。
9月を「鍼養生の月」ととらえて、季節の変わり目を健やかに過ごしましょう。
▶ 五節句について詳しくは Wikipedia 五節句 をご参照ください。