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眠れないのは肝じゃなく脳?―春の“浅い睡眠”を東洋医学と最新脳科学でひもとく

2026.04.03

こんにちは、健美堂の松田です。

花粉が落ち着いてきた頃から、
「なんだか眠りが浅くなった気がする」とおっしゃる方が増えます。

夜はちゃんと横になっているのに、気づいたら目が覚めている。
朝になっても、なんとなく頭が重い。
熟睡できた感覚がない……。

そういう方に「春になると眠れなくなりませんか?」と聞くと、
「そうなんです」と深くうなずかれることが多いです。

今回は、春に起こりやすい「浅い眠り」について、
東洋医学の考え方と、脳科学的なメカニズムの両側からひもといてみます。

どんな眠れなさが多い? まず全体像を確認する

不眠には、大きく4つのパターンがあります。
臨床データをもとにした種類別の割合は以下のとおりです。

図1:不眠症状の種類別割合
(AJMC「Insomnia Overview」より)

夜中に目が覚める(中途覚醒)61%
熟眠感がない25%
寝つきが悪い(入眠困難)8%
早朝覚醒6%

もっとも多いのは「夜中に目が覚める(中途覚醒)」で全体の6割以上。
「熟眠感がない」がそれに次ぎます。

これを見ると、春に多い「なんとなく眠れない」は、
単純な「寝つきの悪さ」より、眠りの深さにかかわる問題であることが多いとわかります。

東洋医学の視点:春は「肝(かん)」が高ぶりやすい季節

以下は東洋医学的な考え方にもとづく見解です。2,000年以上の経験知をもとにしていますが、「春だから肝が乱れる」という直接の因果を示した科学論文はまだ限られています。参考としてお読みください。

東洋医学では、春は「肝(かん)」と深く結びついた季節とされています。

ここでいう「肝」とは、西洋医学のliver(肝臓)とは少し異なります。
気の流れを調整し、感情と深くかかわる臓腑——そういうイメージです。

春になると肝の働きが活発になる。それ自体は自然なことです。
ただ同時に、肝は「高ぶりやすく」なる季節でもあります。

この「肝の高ぶり」を、東洋医学では「肝鬱気滞(かんうつきたい)」と呼びます。
気の流れが詰まり、熱がこもった状態。
これが睡眠を妨げるとされています。

気の流れが詰まった状態で眠ろうとするのは、
エンジンをかけたまま布団に入るようなものです。

眠れない、夜中に目が覚める、夢が多い、朝に疲れが残る——
春の不眠を訴える方の多くに、この傾向が見られます。

脳科学が示す:鍼灸が睡眠を変えるメカニズム

では、なぜ鍼灸が眠りに効くのか。
脳科学的なメカニズムとして、現在いくつかの経路が示唆されています。

① 睡眠ホルモンの産生を促す

睡眠に関わるメラトニンは、セロトニンを材料にして作られます。
鍼灸の刺激がセロトニン・メラトニンの産生を促すことは、複数の研究で報告されています。

② ストレス応答系(HPA軸)を鎮める

緊張・不安・ストレスが続くと、視床下部〜下垂体〜副腎(HPA軸)が過活動になり、
交感神経が優位なまま眠れない状態が続きます。
鍼灸はこのHPA軸の過活動を抑制し、自律神経のバランスを整える方向に作用することが示唆されています。

春に「気が高ぶる」という東洋医学の表現と、「交感神経が過活動になる」という脳科学的な説明は、表現こそ違いますが、方向性として重なる部分があります。

図2:鍼灸+漢方群 vs 対照群の有効率比較
(PubMed 32281361より)

鍼灸+漢方群(肝鬱気滞型)91.5%
対照群75.4%

鍼灸と漢方を組み合わせた群では有効率91.5%と、対照群(75.4%)を大きく上回る結果でした。
この臨床試験は更年期女性を対象としたものですが、肝鬱気滞型の不眠に対するアプローチの有効性を示す根拠として参考になります。

また、不眠に対する鍼灸治療のシステマティックレビュー(46の無作為化比較試験・3,811名)でも、鍼灸は偽鍼と比較して主観的な睡眠の質(PSQI)を有意に改善することが確認されています。

春の浅い眠りに使われる主なツボ

「肝鬱気滞」の傾向があるとき、臨床でよく使われる経穴(ツボ)を3つご紹介します。
気になる方はご自宅でも試してみてください。

三陰交(さんいんこう)
内くるぶしから指4本上、骨のキワ。
気・血・水の全体的な流れを整えるツボ。慢性的な睡眠の問題にも広く使われます。
太衝(たいしょう)
足の甲、親指と人差し指の骨が交わるくぼみ。
肝の気を巡らせるとされる、春の定番ツボ。イライラや緊張感が強いときにも。
神門(しんもん)
手首の小指側、横じわのくぼみ。
心を落ち着かせ、眠りに入りやすくするとされます。寝る前のツボ押しに向いています。

いずれも、痛くない程度にじんわり押して5〜10秒。
力を入れすぎず、呼吸を意識しながら。
毎晩のルーティンに組み込んでみてください。

おわりに

春の浅い眠りには、脳の過活動と「肝の高ぶり」が重なっていることが多い。
鍼灸がその両方に同時に作用する可能性は、少しずつデータとしても積み上がってきています。

ただ、体の状態は人それぞれです。
「肝鬱気滞」が主なのか、別のパターンが関わっているのか——
それは脈診・舌診ではじめてわかることが多いです。

眠れない夜が続くようであれば、一度ご相談ください。

【参考文献・グラフ出典】
・論文①:Impact of Acupuncture on Sleep and Comorbid Symptoms for Chronic Insomnia: A Randomized Clinical Trial
 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8519353/
・論文②:Acupuncture for chronic insomnia disorder: a systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis
 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12074954/
・論文③:鍼灸+修正香附子湯による肝鬱気滞型更年期不眠への効果(棒グラフ出典)
 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32281361/
・図1(円グラフ)出典:AJMC「Insomnia Overview: Epidemiology, Pathophysiology, Diagnosis and Monitoring, and Nonpharmacologic Therapy」
 https://www.ajmc.com/view/insomnia-overview-epidemiology-pathophysiology-diagnosis-and-monitoring-and-nonpharmacologic-therapy
・Prescription of Chinese Herbal Medicine and Selection of Acupoints in Pattern-Based TCM Treatment for Insomnia
 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3521464/
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